オーナーセレクトのアートやカルチャーを「集う」「繋る」をテーマに発信。
Q.聞き手:
アビエススフィルマはもともとご実家の診療所をギャラリーに改装されたと伺いました。このアイデアは、どのようにして思いついたのでしょうか?また当時どのような思いがありましたか?
A .砂山 :
私の祖母の代から、約80年間この場所に診療所がありました。診療所といっても、いつも近所の人たちが集まって、なんとなく寄り合う場所で、毎日が賑やかでした。
父が亡くなった後、診療所をしばらく閉じていたのですが、その間、銀行の方などから「テナントとして貸しませんか?」という話も何度かありました。でも、私は祖母や父が長年使っていたこの場所を他の人に貸すのが、どうしても気が進まなかった。それで自分の興味があるアートやファッションを活かして、何かできないかと考えました。ちょうどスタイリストの友人もいたこともあり、ギャラリー・サロンとして2006年に「アビエスフィルマ」をオープンしました。
Q.聞き手:
ギャラリー「abiesfirma」の[もみの木]という名前に込められた思いや背景を 教えていただけますか?
A .砂山 :
私の家族は代々クリスチャンで、毎年クリスマスを祝う習慣がありました。私が子供の頃は、御影の市場は12月が一番忙しくて、どうしても市場の子供たちは放置されがちだったんです。それを知った祖母は毎年その子供たちを自宅に呼び、母がちらし寿司を作り、サンタクロースの格好をしてクリスマス会を開いていました。もちろん、参加費は一切取らず、ただただ、みんなで楽しく過ごすことが大切でした。
私の記憶の中では、両親は忙しくて誕生日やお正月のお祝いも少なかったけれど、クリスマスだけは特別な日として大事にしてくれました。
みんなが集まり、クリスマスツリーの下で一緒にお祝いする、そんな温かい空間がアビエスフィルマ(もみの木)として象徴されています。それに「abiesfirma」という名前は、ラテン語で「永遠の命」という意味もあり、人々が集まり、楽しめるこの場所が永遠に続くようにという願いも込められているんです。
Q.聞き手:
アビエスフィルマが始まる以前、神戸・御影という土地は、砂山さんにとってアートや ファッションとどのような関係だったのでしょうか。神戸の街やその文化的な空気が「abiesfirma」の誕生や活動内容に影響を与えている部分があれば教えてください。
A .砂山 :
まず、神戸には美術館がそんなに多くなかったんですね。でも、父と母は絵が好きで、よく絵を描いていました。少し下手でしたけど。父が亡くなる少し前、入院中に色鉛筆を使って描いていた絵は、とても可愛かった。父の医者という職業は、生き死にを扱う仕事だから、やっぱり心の中でしんどさがあったんだと思います。そこでアートに救われていた部分もあったのかもしれません。
ファッションに関しては、うちの家はそんなにお洒落というわけではなかったんですが、友達の家に行くと、もう根っからの神戸人の暮らしぶりといった感じで、食事の時なんかもランチョンマットを敷いたり、必ずお花を飾ったりしていたんです。その流れで、自然に洋服などのファッションにも興味を持つようになりました。
Q.聞き手:
アビエスの特徴としてファッションやアートだけでなく、音楽や料理のイベントも頻繁に企画されていることがあると思います。キッチン設備が開廊当時からあったことに驚くのですが、その発想はどのようにしてうまれたのでしょうか?また展示内容はどういった 視点で選ばれていますか?
A .砂山 :
2006年頃、ギャラリー・サロンのような空間を作りたいと思っていたとき、ロンドンでとても印象的なフォトギャラリーを訪れました。
その展示室の中央には、大きなテーブルがあり、その奥にはキッチンが併設されていて、テーブルで軽く食事をしながらその周りで展示されている写真を楽しむことができるという空間でした。
それが非常にかっこよくて、私には新鮮で、魅力的に感じられました。当時は今のような時代ではなく、ギャラリーといえばホワイトキューブ、つまり白くて無機質な空間が主流でした。
キッチンを併設することは難しいと周囲から言われたものの、それでも私がイメージする、人々が集い、自由に過ごせるギャラリー・サロンには、こうした柔軟で開かれたスペースが必要だと感じました。
Q.聞き手:
アーティストやクリエイターとの関わりの中で、特に印象に残ったエピソードや展示について教えてください。または、最初の企画展について教えてください。
A .砂山 :
アフリカの音楽に触れるイベントを行いました。フランスに住むギニア出身のアーティスト、カラモコのライブを2回開催したんです。
最初のライブは音楽だけのイベントでしたが、2回目はアビエスフィルマのキッチンを活用して、アフリカ料理も提供しました。カラモコはフランスに住んでいるアフリカ出身のアーティストなので、いわゆる土着のアフリカンとは少し異なり、フレンチスタイルのアフリカンです。だから料理も、フランス料理を作るシェフにアフリカ料理をお願いしたんです。こういったイベントこそ、アビエスフィルマらしい独自の魅力を持ったものだと思います。
Q.聞き手:
約18年間 活動されてきた中で、ギャラリーの雰囲気や展示方針に変化はありましたか?また砂山さんご自身の感性や価値観が変化したと感じることはありますか?
A .砂山 :
アビエスフィルマを立ち上げた初期の頃、京都芸術大学の学生が手伝ってくれていた時期がありました。その学生には、京都芸大の学生による展示会をキュレーションしてもらったこともあります。
当時、京都芸大の学生たちは本当に素晴らしい作品を生み出していたにもかかわらず、その展示の機会は大学内に限られていました。また、卒業後にアーティストとして活動を続けるのは非常に難しい時代でもありました。日本のアート文化が今ほど成熟していなかった時期だったからです。
そこで、学生たちの作品をアビエスフィルマで展示し、販売も行うという試みを始めました。この展示はお客様からも大変好評をいただき、アビエスフィルマにとっても非常に貴重な経験となりました。その後、キュレーターを志していたその学生が就職を機にアビエスを離れることとなり、以降は私自身の興味のあるファッションの分野などを取り入れた企画を頻繁に行うようになりました。
Q.聞き手:
ギャラリーを訪れる人々がこの空間でどのような体験や発見をしてくれることを期待していますか?
A .砂山 :
そうですね、まず、アビエスフィルマの特徴として、これは主人からも良く言われるのですが、お客さんと作家さんとの距離が近いことです。お客さんが直接いろいろ話して、作家さんとも繋がって、そこからお客さん自身の感性が刺激を受けたりしてもらえたら、とても嬉しいですね。
それにアビエスフィルマではお茶を出してみんなで一緒に飲んだりすることが多いので、お客さん同士が自然に繋がる場にもなっているんです。会話を楽しんでいるうちに親しくなって、そのままお友達になる方もいるので、だからそう、サロンですね。この感じがすごく素敵だと思います。
Q.聞き手:
もしご両親が今のアビエスフィルマを見たら、どんな感想を述べられると思いますか?
A .砂山 :
父も母も人が集う事が好きで、音楽も好きで、 だから、診療所だったこの場所がアビエスフィルマとして新しく人が集まる場所になってるのは喜んでくれてるんじゃないかなと思います。
Q.聞き手:
これからの「abiesfirma」についてお聞かせください。
A .砂山 :
これまで本当にたくさんの方と繋がることができて、素敵な出会いをたくさんいただきました。
これからは、私だけじゃなくて、これまでに繋がった作家さんたちを通じて、新しい作家さんの展示を企画したり、広げていきたいなと思っているんです。私ひとりの感性だけでなく、いろんな方の感性や視点が加わっていくことで、アビエスフィルマがもっと面白く、もっと多様な空間になっていけるんじゃないかなと感じています。それがまた、新しい出会いや繋がりを生むきっかけになったら、とても嬉しいですね。





